2008年11月2日日曜日

河合隼雄『こころの声を聴く 河合隼雄対談集』新潮文庫

本書は10名の著名人とユング派の河合隼雄さんとの対談が収められています。河合隼雄さんは日本で初めてスイスのユング研究所のユング派分析者として認定された人です。昭和40年頃から日本で心理療法の仕事を開始されたのだそうですが、当時はカウンセリングというものへの認知度はゼロに等しく河合さんはあまり語られていないようですが、その苦労は並たいていのものではなかったに違いありません。しかも、スイスとアメリカで習得したユング派の心理療法を日本の風土の中で応用し実践することは河合さんの「創始」と呼んでもよいような気がします。それだけすごい人なのに、対談の中では全然偉ぶっていないところがまたすごいと思います。対談の相手は遠藤周作さんなどの小説家や詩人の谷川俊太郎さん、それに医師や免疫学者など多彩です。みんな一流の人ばかりで一癖も二癖もあるような人たちですが、河合さんは文字通り「自然に」対談されています。それもあたりさわりのないやり方ではなく、自然な感じで始めて徐々に互いの心の奥深くに入っていく様は見事です。ご本人も自分は「ファジーな」人間だとおっしゃっていますが、「ファジー」だからこそ、単にお仕着せの対話に終わらず深いテーマを追求することができるのだと感じました。この本の終わりのほうの作家・村上春樹さんとの対談の中で河合さんは「・・・・・・僕はあの主人公(『ねじまき鳥クロニクル』の)が井戸の中に降りて行くところを読んでいて、僕らの仕事(心理療法の仕事)と似てるなあと思ったんですよ。要するに僕らは何もしないで、ただ井戸の中に入って、人の痛みを感じたりしている。その井戸に入るというのは、他人の意識の中に入るということじゃなくて、自分です。自分の井戸の中に深く入れば入るほど相手の井戸と共有できるわけです。浅かったらダメですね。深く入っていくと、地下水がつながるんです。その地下水がつながるところまで掘らなければいかんわけです。それがなかなか掘れないんですけどね。・・・・・・」
とおっしゃっています。この言葉はとても印象に残っています。
 この本を読むと、河合隼雄さんという人の思想がとてもよくわかります。対談という一見「軽い?」形式の中で深い考えを示すことができるのはすごいです。
 また、この本を読むと、いままで知らなかった作家や本の魅力を知ることもできます。読んでみたい気にさせます。

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