先ほどご紹介しました『こころの声を聴く 河合隼雄対談集』の中の最初の対談者である作家・山田太一さんとの対談の中で取り上げられるのがこの作品です。対談を読んですぐに読んでみたくなりました。
主人公は四十代半ばの放送作家。作者の投影がたぶんに含まれていると思いますが、主人公と作者は基本的には別なのでしょう。
ネタバレになっていまいますが、主人公は離婚後ほとんど誰も居住しない都心の雑居ビルで寝起きしています。昼間は事務所で使用されるため人の出入りはあるのですが、夜間はまったく無人と化します。
そこへ数少ない居住者である三十代の女性が寂しいから一緒にお酒をつきあってほしいと懇願してきますが、離婚直後の人間嫌いからすげもなく断ってしまう主人公。しかし、この女性とは再び会う機会を設けてやがて一種の恋人関係になっていきます。
そんなとき、主人公の男性は久しぶりに故郷の浅草に足を伸ばし、演芸場に足を踏み入れます。興ざめのする落語を見ながら主人公はそこに三十年前に亡くなったはずの「父」と再会します。三十代の「父」について四十代の「私」は両親の家まで行きます。そしてそこで「母」と再会するのです。
両親の幽霊と出会うわけです。
もうこのへんは号泣せずには読み進めませんでした。
最後に両親と真夏の夕にすき焼きを食べに外食します。両親とのお別れです。
読んでいてとてもつらくまたとても暖かくなる作品でした。
ただ、さっきの同じマンションの女性も幽霊なんですが、ちょっと最後は怖かった。
0 件のコメント:
コメントを投稿