『スプートニクの恋人』の印象が強かったので、同じくらいの長さの小説を読みました。でもこちらのほうはさらに経済的な富裕層の人々が描かれます。
大学卒業後、教科書会社で教科書の編修・校閲という地味な仕事に生きがいを感じることなく従事していた主人公は二十台後半に妻となるべき女性と知り合い、その義理の父の融資で青山にジャズバーを開店させ事業を成功させます。やがて青山に4LDKのマンションを購入し、BMWで自宅と店を行き来する身分になり、雑誌『ブルータス』にも紹介されます。
それがきっかけで12歳の頃仲良しだった「島本さん」と再会し、これと言った浮気に身をやつすことのなかった主人公は「島本さん」と「恋に落ちて」いきます。
妻の父は自社ビルを有する建築会社のオーナーで政財界とのパイプのため不正株取引に手を出したりしているようですし、主人公自身も青山にある幼稚園に娘をBMWで送り迎えをしていて、同じ幼稚園に送り迎えをしている別の「お母さん」との話題は「紀伊国屋」のバーゲンがどうとかいうような話をし、週末には妻と二人の娘を連れて箱根の別荘に憩う。この作品の初版は1992年だからバブル崩壊寸前の頃です。それにしてもここまで宙に浮いたような話だとついていけないというのが正直な感想なのですが、こんなマネーゲームのような生き方を描くことによって当時の世相の雰囲気は伝わってきますし、自分自身は幸せになりたいと思っていて、その中には経済的成功も含まれているはずなのに、実際にそういった成功譚を「青山・4LDK・BMW・別荘」というふうに見てしまうと、これが本当に幸福な生活なのかと疑ってしまう自分もいます。
要するにすべてが非常に「あいまい」なのです。
それは主人公自身の感想でもあるようです。
それにしても、「島本さん」が主人公の「はじめ君」に要求する「すべて」とはすさまじいものでした。130キロか140キロで高速を飛ばしていく主人公が握るハンドルを急激にきって激突死することですから。豊かさの中で本当に生きる、ということの難しさを教えられた作品でした。
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