2008年11月13日木曜日

村上春樹『レキシントンの幽霊』文春文庫

 またまた村上春樹さんの小説、今度は短編集です。いったいいつになったら『ねじまき鳥』のほうに移れるのでしょうか?
 短編はどうだろうと眉唾ものに思っていましたが、この人は短編もすばらしいことがわかりました。正直おもしろかったです。
 恐怖物です。それも心理的な恐怖が描かれています。スティーブン・キングに似ていなくもないのですが、それよりはるかにリアリスティックだと思います。キングのほうがちょっと現実からはみ出しすぎているように思います。かといって村上さんのほうがファンタジーが少ないかというとそうではありません。はるかにファンタスティックでリアリスティックです。
 『沈黙』という短編は主人公が高校時代にいじめと濡れ衣で苦しむ話ですが、現実の学校では現実にありそうなので、ファンタジーというよりも現実そのままという印象を受けました。
 『氷男』はおもしろかった。いくところまでいっちゃうという感じでした。
 私が一番心に残ったのは最後の『めくらやなぎと、眠る女』という短編です。語られることとそこに語られていない事柄とのコントラストが心地よく心に残ります。
 キングのようでもありポーのようでもあり、はたまたアンブローズ・ビアスのようでもありますが、村上さんの世界観はそのどれでもなく、ほんとにユングに出てくる「アニマ」だとか「アニムス」だとか「影(シャドウ)」だとか人間の無意識の世界の奥深さをよく感じさせるなぁと思いました。

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