2009年1月30日金曜日

『谷川俊太郎詩集』ハルキ文庫

とても刺激的な詩を見つけました。題名は「母を売りに」というものです。

母を売りに

背に母を背負い
髪に母の息がかかり
掌に母の尻の骨を支え
母を売りに行った

飴を買い母に舐らせ
寒くないかと問い
肩に母の指が喰いこみ
母を売りに行った

市場は子や孫たちで賑わい
空はのどかに曇り
値はつかず
冗談を交し合い

背で母は眠りこみ
小水を洩らし
電車は高架を走り
まだ恋人たちも居て

使い古した宇宙服や
からっぽのカセット・テープ
僅かな野花も並ぶ市場へ
誰が買ってくれるのか

母を売りに行った
声は涸れ
足は萎え
母を売りに行った

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