2009年4月26日日曜日

泉鏡花『歌行灯』岩波文庫

 冬の桑名(焼き蛤で有名な)の夜を舞台にした鏡花の代表作のひとつです。
 まず、読んでもすぐには意味のわからない語彙でちりばめられています。
 それから、語り口が独特でそれに慣れるのに時間を要しました。
 にもかかわらず最後まで読んだのはその魅力的な世界観のせいでしょう。

 桑名の町の別々の場所で語られる男女の身の上話は、最後の場面で「月の光」でひとつになります。
 男の方はかつては謡の名人、故あって師匠により破門宣告を受け謡を禁じられた身の上、女の方は人買いに売られて常に生き死にの狭間にあった身の上。その二人の身の上話は互いに交わりあうことなく語られていきます。

 とくに、女の方の身の上は、継母に売られてからの話はいくら明治大正の頃とはいえあまりにも悲惨なものです。

 泉鏡花の作品は一見シュールな世界観を呈しているように見受けられますし、実際に読んでみたことがなかった時にはそのように宣伝されていたような気がします。
 しかし、実際に読んでみると、現実の極限状況の中で生きる人々が経験するきわめて現実的な世界が描かれているような印象を受けました。
 と同時に、描かれている世界は、ユングの言うところの元型にきわめて近く、鏡花の創造するイメージ世界を心に温めているだけで、自分の無意識が刺激されていくのがわかります。

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