カニグズバーグはアメリカのユダヤ系作家です。岩波少年文庫には彼女の多くの作品が出版されています。その中には『ベーグルチームの作戦』のようにユダヤ色が比較的濃いものもありますが、基本的にどの作品もユダヤ教の知識なしに読むことができます。
マックスという12歳の少年が再婚する母親の新婚旅行の間、もとの父親と共に過ごす数週間の生活が描かれています。もとの父親、マックスの「お父さん」はラクダのアーメッドと共にその日暮らしを送っています。ラクダのアーメッドに見物人の子供を乗せて小銭を稼ぐという商売です。いろいろなイベント会場に行っては人々が集まるところで商売が成り立つわけで、その日暮しのうえに、定住は望むべくもありません。ですから、マックスのお母さんは彼と離婚することを決意するわけです。
マックスはどんなに暑くても、自分が通っている名門校の上着を脱ごうとしません。特に、お母さんが嫌っているもとの父親「お父さん」と一緒にラクダと行商の旅をキャンピングカーでしている最中は強情すぎるくらい上着と学校のバッジにこだわります。
そんなイベント会場のひとつでマックスとお父さんは不思議な人々と出会います。
特に、リリーとサブリナ母娘との出会いは、マックスにとってこの物語の中で大きな位置を占めます。
サブリナはいつも「規格はずれの人々」の記事を新聞から切り抜いて持ち歩いています。サブリナのお母さんのリリーは出会うたびに違った職業の人間として登場します。要するに、イベント会場で匿名の会員のふりをすることによって宿泊費と食費などの生活費を稼いでいるわけです。題名の『800番への旅』の800番ということとこの辺の生活の仕方が関連してくるわけです。
カニグズバーグの作品はその題名の意味がしばらくわからないまま話が進行していきます。しかし、海で浅瀬から急に水深が深くなるように、彼女の作品はいつも後半のある地点で深刻な感情の深みに入っていきます。この作品でもこの「800番」の意味が明らかになるところで、読者の気持ちを揺さぶるような感動を呼び起こします。
それはマックスがなぜ名門校の制服の上着とバッジにあれほどこだわったか、そしてそれなしの「自分」をさらけだすことに不安を感じるのか、そのこととも関係があります。
ただあらすじがわかっただけでは終わらない、何度も読み返したくなる作品が彼女の作品なのだと思います。
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