とても長いです。三部構成になっていて、第一部が戦前、第二部は戦時中、第三部は戦後というように日本の戦中戦後とともに消長を経験するある新興宗教団体をモデルに創作されています。
その中でも第一部は圧巻です。教祖の女性が江戸末期から明治前半にかけて嘗めた辛酸から教団を形成していくくだり、そして教団に拾われた少年が東北の飢饉を母子で経験する中でついに母親の肉を口にすることによって生き延びるくだりは読むものを震撼させずにはおきません。
人は自分の理想によって生き、かつ滅びる、という思想が高橋和巳の作品には多くでてきます。この『邪宗門』でも宿命的に滅亡への傾向を最初から内包している人々と時代と教団。しかし、ただ自虐的だと済ますわけにはいかないなにかが、この作品の中にも、他の高橋和巳の作品にも含まれています。それはいかなる左右の思想的傾向を問わず、いかなる思想もその人の生き方の受肉したものであるという基本的な考え方ではないでしょうか。作品中には宗教を毛嫌いする人も宗教にのめりこむ人も、極端な右寄りの人も、極端に左よりの人も、ありとあらゆる思想的傾向の人々が登場しますが、それらの人々の思想を決して「わからない」と蓋をすることはありません。高橋和巳の作品では全ての思想的傾向の中に入って理解しようとする一貫した姿勢が感じられ、この点学ぶべきことがまだまだたくさんあるような気がします。
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