岩波少年文庫の『人形の家』で有名なイギリスの作家です。こちらの方はまだ読んでいません。『台所のマリアさま』の方は手ごろな厚さで一気に読めそうだったので手にとってみました。そうすると本当に一気に読み終わってしまいました。
お母さんもお父さんも設計技師として超多忙な毎日を送る親をもつグレゴリーとジャネットの兄妹はただお手伝いさんだけが「家」の暖かさを求めるよりどころでした。しかし、マルタというウクライナ出身の高齢のお手伝いさんが来るまでは比較的若いお手伝いさんばかりで、二人の子供は安らぎを与えられるより返って振り回されるほうが多かったのです。
マルタはうちにいることが何よりも好きなお手伝いさんでした。しかも家の中の台所にいつもすべての用事を足していました。台所に行けばいつもマルタがいることで、兄のグレゴリーは初めて家庭の温かさを感じることができました。
ジャネットが活発で外交的なのに対して、グレゴリーは引っ込み思案で自分の部屋に引きこもってばかりいます。
そんなグレゴリーがマルタに対してだけは共感を示すのです。
グレゴリーにはマルタが不幸に見えるのです。
実際、マルタは戦争によって祖国ウクライナから亡命してイギリスに住まなくてはならない身の上ですからグレゴリーのいう「不幸」というのは当たっているかもしれません。
しかし、グレゴリーの心を動かしたのは、マルタのずっと心の奥の方にある「不幸」なのかもしれません。
有能な設計技師であるお母さん自らが設計した台所はモダンなデザインで統一されていますが、マルタにとってそこには「何もない」のでした。少なくともマルタが子供の頃過ごしたウクライナの家の中と比べて殺風景な場所でした。
あるときグレゴリーとジャネットとマルタからマルタの家にあった台所のマリアさまの話を聞きます。そのマリアさまの装身具や服には宝石がちりばめられていて「いつもこちらを見ていてくださる」のでした。
グレゴリーはマルタのために、この「台所のマリアさま」を手に入れようと決心します。もちろん妹のジャネットも協力を惜しみませんでした。
ストーリーが緊密で一挙に読んでしまいました。
9歳の男の子がどんなことを思い、決心し、行動するか、自分の子供時代を思い出させてくれる優れた作品でした。
挿絵も素晴らしかったです。
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