2009年7月18日土曜日

E.L.カニグズバーグ『ティーパーティーの謎』岩波少年文庫

 四人の少年少女(6年生)たちがクイズの選手権で地区大会を勝ち抜き優勝する話です。
 しかし、そのコンテストにいたる過程で、それぞれの子供達がどんな経験し、いかにして四人のチームを作るに至ったかのエピソードに重点が置かれています。
 そして、この四人のチームを率いるオリンスキー先生(彼女は身障者でもあります)の経験も。
 どの子供も両親が離婚していたり、学校で深刻ないじめを受けていたり、優秀な兄といつも比較されたり、でどこか屈折した気持ちを持っています。
 おじいちゃんが再婚した相手の女性が野生の海がめの監督官の資格を持っており、離婚したばかりの自分の父親も海がめのボランティアにさせようとして抱き込もうとしようとしているのにがまんならない女の子ナディア。ナディアのお父さんはいつも娘と正面から向き合おうとしません。向き合うことを恐れているのです。ナディアの不満はそこに原因があって、それをあからさまに父にわからせようとするのですが、父はあくまで修羅場を避けようとするのです。
 嵐の晩、とうとうお父さんは海がめのボランティアを休んでナディアをディズニーランドに連れていく約束をします。しかし、嵐のために海がめの卵が流されてしまうから助けてくれというおじいちゃんからの電話。
 この嵐の晩、ナディアとお父さんはどんな決心をするのでしょうか。それはぜひ本を読んでほしいと思います。
 また、車椅子のオリンスキー先生のことにもふれないわけにはいきません。
 オリンスキー先生は数年ぶりに車椅子で教職に復帰しましたが、その最初の時間に黒板に自分は身体障害者と書いたその「身体障害者」という文字が「不具者」という文字に書き換えられていて、ショックを受けます。
 クラスの中に陰湿ないじめっ子がいるのですが、その子の仕業なのでしょう。しかしオリンスキー先生はクイズの大会の四人目の候補者をこのいじめっ子にしようかと迷います。いじめっ子だけどリーダーシップは取れるのではと考えたのです。
 私も教職にありましたが、この思考様式は私にもありました。ちょっとワルだけどクラスの生徒に人気がある、だから、リーダーシップがあるに違いない、という推論の仕方です。この悪いループにはまっていない教師は少くないのかもしれません。正しい少数派を犠牲にして多数派の意見に従うというやつです。クラスの中に自分に反抗する生徒が一人いてその子がクラスの少なくない人数の生徒の支持を得ているとき、先生はその生徒を屈服させるか懐柔させるかのいずれかの選択肢しかないような気持ちに陥るのですが、そこに罠が潜んでいるのです。この罠は「力こそ正義である」という古くからあるひとつの信念なのですが、この信念が正しいものかどうかは各人の経験によるでしょう。
 他にも数多くのエピソードがこの作品の中には収められています。
 ぜひ手にとって読んでみてください。

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