2009年7月18日土曜日

ケストナー短編『小さな男の子の旅』小峰書店

 『飛ぶ教室』で有名なケストナーの短編がふたつ収められた本当に小さな本です。
 最初の方が本の表題の「小さな男の旅」という作品で、小さな男の子が入院しているお母さんのお見舞いに行くために路面電車に乗っていく様子と病院でお母さんと面会する場面を描いています。
 本当に無邪気な男の子の振る舞いに電車の乗客たちも微笑みを絶やせません。
 男の子の振る舞いだけでなく、男の子のせりふも無邪気そのものです。それは私達の子供時代を思い出させるだけでなく、私達の子供時代にも忘れていたけど密かに隠し持っていた純粋な無邪気さに気付かせてくれます。ケストナーはこんな子供の隠し持っている内心の遊び心(それだけに大人以上に痛切な悲しみも)を表現するのに非凡な才能のある作家だと思いました。
 もうひとつの作品『おかあさんがふたり』はお父さんが再婚することになり、新しいお母さんが来る日、兄弟姉妹のうちマーレーネだけが家に戻ってきません。亡くなったお母さんのお墓にいるのです。そこでマーレーネは天国のお母さんに会いに行きます。
 新しいお母さんが迎えに墓場にまでいきます。新しいお母さんは自分の不幸な子供時代のお話をマーレーネにします。マーレーネの気持ちが少し和らぎます。
 まだ4、5歳に過ぎないマーレーネの心のが和らいでいく様子が読む者に伝わってきます。傷ついた心が理解できるのは傷ついた心以外にないことを読者は理解するでしょう。

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