2010年5月11日火曜日

影について(再)

 C.G. ユングは文明論の中でたびたび影の力について言及しています。
 ユングが生きたヨーロッパは二つの世界大戦と戦後の米ソの冷戦の時代です。
 とくに冷戦の時代については、クレムリンの指導者もホワイトハウスの大統領も共に相手を罵りながら、実は相手の中に自分の権力者の影を見ているに過ぎないと述べています。
 同時に、影からの影響が最低限の人々についても触れていて、こうした人々は外部世界に自分の影を投影することをやめて、自分の心の中深く省察することに時間を費やすと行っています。
 さらには、自分にはすべてを理解でき(悟った)と思い込む人々の意識は無意識に飲み込まれてしまっていると言っています。
 意識の膨張と名付けられるこの現象は、一見、自分の心を修行や内省によって極めたと思い込むところに始まるのです。
 影によって、つまり無意識に飲み込まれるのには、投影された他者を攻撃したり批判することで自分の影を見ずに済ますことだけでなく、自分は影を克服したと思い込むことで知らず知らずのうちに意識膨張に陥って、無意識に飲み込まれていることを自覚しない場合と、少なくとも二つの原因が考えられます。

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